会社員からフリーランスへ:安定を捨てて「魂の仕事」に飛び込んだ私の決断

毎月決まった日に振り込まれる給料。充実した福利厚生。社会的な信用。会社員という身分は、多くの人にとって「安定」の象徴だと思います。私も数年前まで、そんな「安定」という名の船に乗り、決められた航路を進む船員の一人でした。

しかし、私の心の中では、日に日に小さな、しかし無視できない声が大きくなっていました。

「この仕事は、本当に自分の人生を懸けてやりたいことなのだろうか?」

「誰かの決めたルールの上で歯車として動き続けるだけで、自分自身の『魂』は燃えているのだろうか?」

そして私は、多くの人がうらやむ「安定」という船から自ら降り、フリーランスという名の、羅針盤も海図も自分次第の一艘の小舟に乗り換える決断をしました。

これは、ごく普通の会社員だった私が、安定を捨てて「魂の仕事(Calling)」に飛び込むまでの、そして飛び込んだ後の、決して綺麗事だけではないリアルな物語です。もしあなたが、かつての私と同じような葛藤を抱えているなら、この体験談が何かのヒントになるかもしれません。

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「安定」という名の黄金の鳥かご。私が会社を辞めた理由

私が勤めていたのは、いわゆる中堅のIT企業でした。仕事は決して楽ではありませんでしたが、やりがいのあるプロジェクトも多く、人間関係にも恵まれていました。客観的に見れば、何一つ不満のない環境だったはずです。

しかし、年次が上がるにつれて、私は自分が「黄金の鳥かご」の中にいるような感覚に囚われるようになりました。

  • 自分の仕事の「手触り」のなさ: 大きな組織の一員として働く中で、自分の仕事が最終的に誰の、どんな喜びに繋がっているのか、その手触りが感じられなくなっていました。
  • 評価と貢献のズレ: 本当に顧客のためになると信じる提案よりも、社内で評価されやすい立ち回りが求められる瞬間。自分の良心と会社の論理との間で、心がすり減っていくのを感じました。
  • 時間の切り売り感覚: 人生という限られた時間を、会社の決めた時間と場所で「切り売り」している感覚が拭えませんでした。もっと自分の裁量で、情熱を注げる対象に時間を使いたい。その思いは日に日に強くなっていったのです。

助走期間としての「複業・副業」。衝動ではなく、計画的に準備したこと

「会社を辞めたい」と思っても、もちろん衝動的に辞表を叩きつけたわけではありません。私が決断できたのは、約1年半にわたる「助走期間」を設けたからです。この期間に私が実践したことは、独立を目指す人にとって非常に重要だと考えています。

1. 「魂の仕事」の仮説検証としての副業

まず始めたのが、本業の傍らでの副業でした。目的は、お小遣い稼ぎではありません。「自分のスキルは、会社の看板がなくても通用するのか?」「自分が本当に楽しいと感じる仕事は何か?」を検証するための、リアルな実験でした。

当時、私はWebマーケティングの知識を活かし、最初はクラウドソーシングサイトで小さなライティング案件や分析レポートの作成から始めました。そこで初めて、クライアントから直接「ありがとう」と言われ、報酬を受け取った時の感動は今でも忘れられません。会社で得る給料とは全く質の違う、自分の価値が認められた証のように感じました。

この複業経験を通じて、私は自分が「IT・デジタルスキルを活かして、困っている中小企業のサポートをすること」に強い喜びを感じることに気づきました。これが、私の「魂の仕事」の原型となったのです。

2. 「個人事業主」になるための地盤固め

副業で手応えを感じてからは、本格的な独立に向けて、具体的な準備を進めました。

  • 資金の準備: 最低でも半年間、収入がゼロでも生活できるだけの資金を目標に貯金しました。これは、独立直後の精神的な安定に大きく繋がりました。
  • 知識の武装: 個人事業主として必要な、税金や保険、契約書の知識などを本やセミナーで学びました。会社が守ってくれていた部分を、今度は全て自分でやらなければなりません。
  • 人脈の構築: SNSや交流会を通じて、同じようにフリーランスとして活動している人や、未来のクライアントになりそうな人との繋がりを意識的に作りました。この時の繋がりが、後の大きな助けとなります。

飛び込んだ後の世界。自由と責任の海原

そして、ついに私は会社を辞め、フリーランスとしての第一歩を踏み出しました。

最初の数ヶ月は、正直に言って不安との戦いでした。会社員時代のように、黙っていても仕事が降ってくることはありません。自分から営業し、仕事を取りに行かなければ、収入はゼロです。断られることも一度や二度ではありませんでした。

しかし、その一方で、これまで感じたことのないような解放感と高揚感がありました。

  • 全てが自分ごと: 仕事の成果も失敗も、全て100%自分の責任。そのヒリヒリするような当事者意識が、私を本気にさせてくれました。
  • 価値がダイレクトに返ってくる喜び: 自分の仕事でお客様が喜び、事業が成長していく姿を間近で見られること。そして、その対価として報酬をいただくこと。このダイレクトな価値交換こそ、私が求めていたものでした。
  • 本当の「自立」: 誰かに依存するのではなく、自分の足で立ち、自分の力で生きていく。その実感は、何物にも代えがたい自信と心の平穏をもたらしてくれました。

まとめ:「安定」の船を降りる勇気。その先にあるもの

会社員からフリーランスになるという決断は、安定を捨てる代わりに、「自分の人生のハンドルを自分で握る」という権利を手に入れることでした。もちろん、この道が全ての人にとっての正解だとは思いません。不安定な収入や孤独感など、乗り越えなければならない壁もたくさんあります。

しかし、もしあなたが今の働き方に疑問を感じ、「魂の仕事」を見つけたいと願うなら、いきなり船を乗り換える必要はありません。まずは、副業・複業という形で、小さなボートを海に浮かべてみてください。そこから見える景色は、きっと会社という大きな船の中から見る景色とは全く違うはずです。

その小さな実験の先に、いずれは起業という、さらに大きな船を自分で作る未来が待っているかもしれません。

私の旅はまだ始まったばかりです。しかし、一つだけ確信を持って言えることがあります。それは、自分の「魂」の声に正直に従った決断は、決してあなたを裏切らない、ということです。あなたの「魂の仕事」探しの旅を、心から応援しています。

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