【本音トーク】なぜ「好き」を仕事にできなかったのか?失敗から学んだこと

「好きなことで、生きていく」
キラキラと輝いて見えるこの言葉。SNSをのぞけば、趣味だったイラストやハンドメイド、得意なことを仕事にして活躍するフリーランスの姿が溢れています。「いつかは自分も、会社に縛られずに独立したい」。そう夢見るのは、ごく自然なことだと思います。
何を隠そう、私自身もその一人でした。大好きだった趣味を仕事にしようと一念発起し、会社員という安定を捨てて、個人事業主としての一歩を踏み出したのです。
しかし、結論からお伝えすると、私のその挑戦は失敗に終わりました。「好き」は、仕事になった途端にその輝きを失い、私は心身ともに疲弊して、結局その道を手放すことになったのです。
これは、成功物語ではありません。むしろ、その逆です。「好き」を仕事にしようとして、なぜうまくいかなかったのか。その失敗の過程で私が骨身にしみて学んだ、耳の痛い、しかしリアルな「本音」の物語です。もしあなたが今、過去の私と同じように夢と現実の間で揺れているなら、この失敗談が、あなたのキャリアを考える上での「転ばぬ先の杖」になるかもしれません。
夢の始まり。私の「好き」が仕事になると思った日
私が仕事にしようとした「好き」は、オリジナルの革小物を作ることでした。休日に革を裁断し、一針一針手で縫い上げていく時間。自分のためだけに、ただ没頭できるその時間は、何物にも代えがたい癒やしでした。
作ったものをSNSにアップすると、友人たちから「売れるよ!」「お店を出したら?」と褒められる日々。いつしか、「もしかしたら、これで生きていけるのかもしれない」という淡い期待が、確信に変わっていきました。
「この退屈なオフィスワークから抜け出して、自分の力で自立したい」
「好きなことだけをして、毎日を充実させたい」
そんな思いに背中を押され、私はついに起業を決意。希望に胸を膨らませて、会社に辞表を提出したのです。
なぜ失敗したのか?「好き」が「苦痛」に変わった4つの理由
しかし、個人事業主としての現実は、私が思い描いていたものとは全く異なるものでした。あれほど大好きだった革小物が、次第に私を苦しめる存在に変わっていったのです。その理由は、大きく分けて4つありました。
1. 「作る喜び」と「売るための苦しみ」を混同していた
趣味で作っていた頃、私は「消費者」でした。自分の好きなデザインのものを、自分のペースで、自分のために作る。その喜びは100%自分のものでした。
しかし、仕事になった途端、私は「生産者」にならなければなりませんでした。お客様の好み、納期、価格…。常に「誰かのため」を考え、自分の「好き」を曲げなければならない場面も出てきます。クレーム対応に心を痛める日もありました。あの純粋だった「作る喜び」は、「売らなければならない」というプレッシャーの前に、あっけなく消え去っていったのです。
2. 「作る以外の仕事」が9割だったという現実
これが最大の誤算でした。私は「革職人」として独立したつもりでしたが、現実は「何でも屋」でした。一日のうち、実際に革に触れている時間は、ほんのわずか。残りの時間は、全て「作る以外の仕事」に費やされました。
- 集客: SNSの更新、ブログの執筆、写真撮影、イベント出展の準備。
- 営業: 委託販売先の開拓、ポートフォリオの作成。
- 経理: 見積書・請求書の作成、確定申告の準備。
- 顧客対応: メールの返信、注文の管理、梱包・発送作業。
特にIT・デジタル関連のスキルが乏しかった私は、オンラインストアの運営やデジタルマーケティングに膨大な時間を取られ、疲弊していきました。「好きなことを仕事にしたはずなのに、やっているのは好きでも得意でもないことばかりだ」というジレンマに、毎日悩まされていました。
3. 「趣味」という逃げ場を失ってしまった
会社員時代、趣味は仕事のストレスから私を解放してくれる「聖域」でした。しかし、その趣味が仕事になったことで、私は心の逃げ場を完全に失いました。
24時間365日、頭の中は仕事のことばかり。趣味として楽しむために革に触ろうとしても、「これはいくらで売れるだろうか」「もっと効率よく作れないか」と考えてしまい、全くリラックスできません。オンとオフの境界線がなくなり、精神的な自立どころか、常に何かに追われるような状態になってしまったのです。
4. 「自分の好き」と「市場のニーズ」がズレていた
私は、自分が作りたいものを作れば、自然と評価されるはずだと信じていました。しかし、それは大きな間違いでした。私がこだわり抜いて作ったニッチな商品は、確かに一部の人には響きましたが、安定した収益を生むほどの市場はありませんでした。
市場調査を怠り、「自分の好き」というフィルターだけで世界を見ていたのです。情熱だけではビジネスは成り立たない。この当たり前の事実に、私は廃業を決意する直前になって、ようやく気づかされたのでした。
失敗から学んだこと。そして、これから「好き」とどう向き合うか
結局、私は約1年で革小物の事業を畳み、再びIT業界で働く道を選びました。大きな挫折でしたが、この失敗は私に何物にも代えがたい教訓を与えてくれました。
教訓1:「好き」を仕事にするなら、「事業」そのものを愛せるか
フリーランスや個人事業主として成功するために必要なのは、コアとなる作業が好きなだけでは不十分です。集客、営業、経理といった、「事業を回すこと」そのものに面白さや、やりがいを感じられるか。これが決定的に重要だと痛感しました。
教訓2:いきなり飛び込むな。「副業」という最強の試着室を使え
もし過去の自分にアドバイスできるなら、「絶対に、まず副業から始めろ」と言うでしょう。本業の安定収入がある状態で、まずは複業として自分の「好き」がビジネスとして通用するのかを試す。この「試着期間」があれば、市場の反応も見れるし、自分が事業全体を楽しめるかも判断できます。いきなり全てを捨てて飛び込むのは、あまりにリスクが高いのです。
教訓3:「好き」は、仕事にしなくてもいい
そして、これが最大の学びでした。「好き」を無理に仕事にする必要はない。大切な趣味を、お金に変えなくてもいい。趣味は趣味として、誰にも評価されず、何の責任も負わない「聖域」として大切に守っていく。それもまた、豊かな人生を送るための、立派な自立の形なのだと気づきました。
今、私は会社員として働きながら、週末に自分のためだけに革小物を作っています。それは、かつてのような輝かしい夢ではありませんが、確かな手触りのある、穏やかで幸せな時間です。
もし、あなたが「好き」を仕事にしたいと願うなら、私の失敗談を反面教師として、どうか慎重に、そして戦略的にその一歩を踏み出してください。あなたの「好き」が、あなたを苦しめるのではなく、あなたの人生を真に豊かにしてくれることを、心から願っています。